大学を出て、自分に知識も技術もない状態からの林業スタート。あまり世の中に馴染めるタイプではなかったし、不安はありましたね。僕は林業の家で生まれてますからまだ知っていたほうだと思いますけど、林業って何をどうやってるかが全然わかんないでしょ?
例えばホームセンターで板とか角材を買うことはあっても、そこまでの工程や、どうやって林業が収益をあげるか、山を買うためには、作業するときにはどういう手続きがいるとか…。なので最初は森林組合で4年くらい、久万で研修に行きながら林業の仕事を覚え、ひとまず食えるようになりました。
組合に1年行って覚えたことが、ノルマと速度。
自分のところだけの仕事ならその日、収益さえ上がっていればいい。でも事業としてやる場合には、速度、納期、期限、すべてがあるから、同じ時間でより効率的に仕事をするようになりました。
木っていうのは正直なので手を抜いたら、何かが起こった場所は100年経ってもそのまま。手入れが遅れて曲がったとして、外から見てわからなくても、木の芯を見たときにずれてるのは変わらない。誤魔化しがきかないんで、人と接するよりも逆に難しいかもしれない。忙しいこともあるけれど、一般的な人の流れとずれていても、人に合わせなくても生きていけるのがいいかな。ある意味とても自由な仕事という点が気に入っています。
僕には師匠が4人います。枝打ちを教えてくださった人、枝打ちから選木、苗作りを教えてくださった人、機械のメンテナンスを教えてくださった人、速度と木の上に上がる仕事を教えてくださった森林組合のときの班長さん。僕はほんとに恵まれていて、例えば同じ一つの技術にしても沢山の人がいろんな方向から教えてくださったんで、自分らしく取捨選択ができた。僕はたかだか自分の林業経験は20年。でも僕の4人の師匠が60年ずつやったものを全部背負ったから、僕の中には260年。僕が近道できたのは、多くの先人が教えてくれたことに尽きます。
心に残っている言葉に「下手な枝打ちをしたら40年したらわかる」というのがあります。いいのが出たからとすぐ切っていたら半永久的に山にならんと。
経験してみなければわからないことと、話をきちんと聞いて、データ収集で対応できることもある。自分で経験せざるをえないことは、30年かけるしかないこともある。でも、聞いて回避できることもありますからね。林業はしたいけど悩みたくない人は組合に入ってみるのもいいと思います。技術を学びながら、安くてもお給料をもらえますしね。
独立できる状況を作れるまではどこかに頼ること。例えば初めはボランティアでもいいし、例えばその自分とこの一族の中で山をやらせてもらえるんだったら、サラリーマンをやりながら月のうちの1日、2日行くことから始めるとか。今の生活環境と林業を9:1にして、少しずつ五分五分くらいに始めるとかいいと思います。いきなり0と10にする人もいますけど、おすすめはしません。
この仕事をしていると、だいたいは笑顔で仕事をしています。悩んで山に来ると、悩んでいる時間が馬鹿馬鹿しくなってくるんです。木を見ていると、僕が悩んでても悩んでなくてもこいつら関係なく育ってるなーって。僕がいようがいまいが何も変わらない。特に地球としても何も問題がない(笑)。何かをしないとダメなわけでもないんだと、でも手を掛けたら掛けただけ、そして反応が返ってくる。だからこそ林業は、何やってても笑っていられます。
いま一番面白いのは森林環境教育ですね。僕は今、西予市三瓶の幼稚園、小学校、中学校に出向くのを事業の一環でやっています。子どもの頃に林業を体験し話を聞けば、もしかするとその中の一人がそれに関わる仕事をするかもしれないと思うんです。フィールドで木を切ってみたりとか、ハシゴ登り、木登りを体験させてみたりとか、もう子どもたちは授業じゃないんでニコニコ笑顔になっていますね。
今の子どもたちが林業に興味がないのは山に行ってない、木に触れてないこと、これが全てです。幼稚園のときに普通の木の輪切りとかにお絵かきして、色んな形の端材を好きなように作るみたいな、その記憶が成長するまでずっと残ればいいなと思います。10年計画で、それが今やっと実になってきた感じ。儲け度外視、もう趣味のようになっています(笑)。
とりあえず、どうにか150歳ぐらいまで動けるようにすることかな(笑)。
木を植えたら40年。30歳のころ植えた木が立派になるころには僕75歳でしょ?だから、ここからはもう経験はできるけど、体がついて来ないんで。30歳後半ぐらいから55歳半ばぐらいまでがたぶん自分のピーク。・・・ってことは、あともう10年しかない。
やっぱり自分自身の目で木の成長を、ずっと見ていたいですね。育てた結果が見られないことは寂しい。今やりたいことがたくさんありすぎて、僕の子どもの子どもに転生させてくれ!と言いたいくらいです(笑)。